2023/10/25 [ 歯の知識 ]
日々忙しい現代人。食事時間が短縮し、噛む回数が少なくなってきています。そもそも食事の内容がそこまで噛まなくても飲み込めるものに変化していることも、その原因となっているようです。
「そんなに急いで食べないの！」「よく噛んで食べなさい！」皆様も子供の頃に親や先生から一度は言われたことがあるのではないでしょうか。
今回は噛むことの重要性と早食いが危険な理由について解説します。
食べ物を噛むことを咀嚼(そしゃく)と言い、噛む動作のことを指します。噛むということは食べ物を細かく噛み砕き、唾液と混ざることで消化を助ける大切な役割があります。
普段の生活で「噛む」ということをあまり意識することはないかもしれません。しかし、現代人の食事はこの「噛む」回数が減る傾向にあります。
農林水産省の調査によれば、戦前の日本人は1食あたり約1420回の咀嚼を行い、約22分の食事時間が必要でした。それに対し、現代人は咀嚼回数が約620回、食事時間も約11分と半分近くに短縮されているのです。
噛む回数の減少は、消化不良や栄養不足といった健康リスクを引き起こす可能性が指摘されています。おそらく、多くの人が「1口30回噛む」ということを聞いたことがあるでしょう。これには咀嚼回数を増やすことで、食べ物との向き合い方や消化機能の向上を促すという意味があります。実際、厚生労働省も「噛ミング30」という取り組みを通じて、一口30回以上噛むことの重要性を広めています。
やわらかい食材ばかりを選ぶと、自然と噛む回数が減り、食事時間も短くなりがちです。よく噛んで食べるには食材の選び方が大切。そこで活用できるのが「咀嚼回数ランク表」です。
(出典：和洋女子大学 柳沢幸江、（株）ロッテ、キユーピー（株） 共同作成2022年)
これは、食品10gあたりの咀嚼回数をランク分けしているものです。
ランク5～10：良く噛む食材。噛みごたえがある。
ランク3～4：噛む食材。噛み応えはそこそこ。
ランク1～2：あまり噛まない食材。すぐに飲み込めるものが多い。
このランク表をもとに、食材や料理を選べば1口30回しっかりと噛む習慣を取り入れやすくなります。
噛むことによって食べ物が細かく噛み砕かれ、唾液中の酵素によって消化がスムーズになり、胃腸への負担が軽減されます。それだけでなく、噛むことは以下のように全身の健康にも関係しているのです。
しっかりと噛むことで満腹中枢が刺激されると満腹感が得られ、食事の量が自然と減少します。その結果、食べ過ぎを防ぐことができます。
噛むことにより唾液が増えるのをご存知でしたか？唾液には、食べかすを洗い流す作用や、むし歯の原因となる細菌の繁殖を抑える作用、酸性に傾いたお口のpHを中和する作用があります。この作用のおかげでむし歯や歯周病のリスクを軽減できるのです。
脳の発達にも噛む動作が関わっています。噛むことでお口周りの筋肉が動き、血流が促進されます。それにより、脳にも十分な血液が供給され、酸素や栄養素が行き渡り脳細胞の働きが活性化するのです。特に、記憶に関与する前頭葉や海馬といった部分が活性化されやすく、記憶力や学習能力が向上すると考えられています。
早食いとは、食べ物を短時間で摂取する食習慣のことです。十分に噛まないまま食べ物を摂取すると、食事の時間が楽しめなくなるだけでなく、健康にも悪影響を及ぼします。
早食いで食べた食べ物は細かく噛み砕かれていないため、胃や腸での消化が不十分になりがちです。これが胃痛や胃もたれ、便秘などの原因となることがあります。
また、脳が「満腹だ」と認識するまでには時間がかかるため、早食いをすると食べ過ぎて肥満のリスクを高めてしまうこともあります。
お口の健康や機能は、生活の質や健康寿命に深く関係しています。
健康でいるために、咀嚼機能の維持はもちろんのこと、飲食物を口から食道へ移動させる嚥下(えんげ)の能力も重要です。
同様に舌の機能も、食べ物をスムーズに体内へ送り込むために不可欠です。それに加えて舌は味覚を感じる役割もあり、食事の楽しみを感じさせてくれます。
しかし歳を重ねるとともに、咀嚼や嚥下、舌の機能が低下して唾液の分泌も減少すると、お口の機能が衰えて「オーラルフレイル」という状態になります。そうなると食事の摂取が困難になり、栄養不足や体重減少などの健康問題を引き起こすリスクが高まります。
老後も元気な生活を送るためには、日頃からお口のケアをしっかり行うことはもちろん、咀嚼・嚥下などの機能の維持に努めることも重要なのです。
食事は私たちの健康に大きな影響を与えます。噛むことやゆっくり食事を楽しむことは、今だけでなく将来の健康を守るために大切な習慣です。早食いを避け、食事を心から楽しんで、健康な生活を送りましょう。
当院でも噛み合わせなど、お口の中の状態を見ることができますので、お気軽にご相談ください。
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